3・遺伝子の発現
遺伝子は酵素などを含んだタンパク質を合成するための遺伝情報です。しかし、タンパク質そのものの遺伝情報を持たないゲノム領域でも、それらの多くはDNAからRNAへ転写されていることが知られるようになり、これらのそれぞれの遺伝子発現における重要な役割を推察できるようになってきました。これらは「遺伝子の発現調節」に関係していることがだんだんに分かってきました。発現調節とはラジオの、ON・OFFのスウィッチやボリュームの調節のようなものです。遺伝子の働きは、その生物が取り囲まれているさまざまな外的環境によって高度に調節されているのです。遺伝子にはタンパク質を合成する情報をもつ、構造遺伝子部分と損もスウィッチに働くプロモーター部分があり、その部分のメチル化の状態によって、その遺伝子のON/OFFを司っています。これまではジャンク遺伝子と考えられてきた部分からも、ある種のRNAが転写されています。これらからの転写産物は非コードRNA(リボ核酸)といわれ、さまざまな塩基のながさや種類のものが次々に発見され、それらの働きもだんだん分かりつつあります。ちなみに染色体というのは、細胞分裂のある時期だけに、核に見られる巨大な構造です。染色体の数とその形は生物によって異なっています。ヒトでは46本(23対)あり、そのうちの1組は人の性を決める働きをもっており、性染色体と言われ、男性はXY型で女性はXX型で、この性染色体によって、個体の雌雄の決定や女性におけるX染色体の不活性化が行われています。鳥類などでは性染色体はZW型で、哺乳類とは逆で、メスがZW型のヘテロ接合体となっています。その他の染色体は常染色体と呼ばれており、雌雄で全く同じで、これらはすべて両親から受け継がれたものです。
「遺伝子」は何度も繰り返しますが、その生物が生きてゆくために利用するタンパク質を作るための重要な情報です。タンパク質はそれぞれ特定の機能を持っており、一般のタンパク質や様々な酵素やコラーゲンなどの構造タンパク質なども含まれています。DNAの遺伝子鎖の塩基配列情報は、いったんメッセンジャーRNA(伝達リボ核酸・m-RNA)に写し取られます。この際、DNAとRNAの塩基配列はそれぞれの塩基の化学構造の相補性によって、お互いに写し取られるす塩基が決まっています。すなわち4つの塩基のうち、グアニンはシトシンとアデニンはシトシンに写し取られます。その逆の転写も行われます。ただしアデニンだけはチミンではなくウラシルに転換されます。この段階を「転写」といいます。タンパク質は、合成されたm-RNAの情報をもとに、リボソームというタンパク質工場で、アミノ酸が長くつながったポリペプチドの鎖として合成されます。この段階を「翻訳」といいます。3つの塩基の並び方によって、1つのアミノ酸が決められますが、これらのすべてを「遺伝暗号」と言います。この過程では、それぞれのアミノ酸は、別の種類のそれぞれのアミノ酸で異なったRNA(伝達RNA)によってリボソームに運ばれて、長い鎖のポリペプチドとして合成され、それが機能を持ったタンパク質へと変化してゆきます。タンパク質の鎖はその配列が出来た後に、それらがねじれたりして複雑な3次元構造となり、初めてその機能を持つことになります。これらの段階をまとめて、「セントラルドグマ(中央教義)」といいます。これは遺伝子構造の研究者のCrickが命名したものです。これらが遺伝子発現のすべてであると考えられてきましたが、今では、「セントラルドグマ」だけでは、すべての遺伝現象を理解することはほとんど不可能な状況になってきました。