私は神戸大学農学部の出身となっているので、神戸の街に詳しいと思われそうだが、実はあまりよく知らない。私が通学した旧兵庫農大は、神戸まで二時間もかかる多紀郡篠山町(今は丹波篠山市)という小さな町ににあったから当然であろう。旧兵庫農大は卒業後県立神戸医大とともに神戸大学に移管された。
級友に神戸の出身者もいたので、彼らの実家に泊めていただいたことはある。私が神戸で好きなのは「三宮」界隈である。国鉄(今のJR)と阪急が高架で並んで走っている光景である。また昔からマロン一色の重厚な阪急電車は大好きである。もう25年前もの阪神大震災で、このあたりが大きな被害にあったのをテレビで見ることはつらかったが、すっかりもとに戻っているようだ。
この近辺の裏通りには古めかしい商店街がまだ残っており、ジャズ喫茶やバーなどが点在しているのはさすがに神戸といった風情である。海に目を転ずると埋め立てられた六甲アイランドには、無人運転のモノレールが走っており、神戸空港も出来ている。学会で神戸に行った時に農大時代の同級生とモノレールで偶然会ってお互いに驚いたこともあった。彼は卒業後ブラジルに行っていた。
神戸大学の研究室から大阪湾が大きく見える。夜景はもっと素晴らしいだろう。神戸大学は六甲山の斜面にあり、神戸高商を母体とするいわゆる「山の上三学部」が一番上を占め、新参者の農学部は一番下にある。いつか、農学部同窓会からの依頼で、「兼松講堂」で講演をしたが、車で延々と登るのには驚いた。兼松講堂はオーストラリア貿易で財を成した「兼松」が寄贈したものだ。
新幹線の「新神戸駅」は奇妙な駅である、六甲山系のトンネルに挟まれた狭い駅で、いつでも周囲から水音が絶えることがない。おそらく東海道・山陽新幹線では最も「秘境駅」であろう。そのくせ、三宮までは地下鉄で一駅で行けるのだ。
私はまだ神戸をほとんど知らないようだ。神戸では観光地となっている洋館群などより歴史を潜ってきた神戸の生きた街を散策してみたい。来年の毒性学会は神戸で開催されるので、合間を見つけて神戸を自分なりに探訪してみよう。
秋埠頭クルーズ船から昼汽笛 徹 (09/25/20)