皆さんは「年縞(ねんこう)」をご存じだろうか。年輪は木の幹に毎年出来る円形のものだが、「年縞」は地層に長年積み重なってできたもので、湖の底などで一年ごとに縞を形成する。これからもやはり年代を知ることが出来る。福井県の三方五湖の一つ、水月湖には、この年縞が約17万年堆積したものが残されている。私は昨年の「乗り鉄」で若狭湾の「三方」という駅に偶然に降り、この博物館を訪れる機会があった。そして、その地質的な価値の大きさに驚愕した。
「年縞」は、そこに住んでいたプランクトンの死骸や落ち葉などによって、1年間に約0.7mm堆積されてゆく、だから縞の本数を数えれば、通算の時代が分かるのだ。博物館には、長さ45mの長大な年縞をボーリングしたものが横にして並べられている。これで7万年分であり、世界最長の年縞だという。年縞の乱れているところが数箇所残っているが、これは地震や洪水、火山の噴火などの影響だという。年縞は、過去の災害の歴史も実に正確に記録している。遥か昔の九州の姶良(あえら)大噴火の影響も正確に記録されている。
「年縞」が長い年月積み重なって湖に保存されるためには、多くの条件が必要である。まず少しずつ沈降していること、大型の生物種が存在しないこと、流入する大きな川がないこと、などなどであり、水月湖は偶然にもこれらに適合していたのだ。少ない研究費でこの湖をボーリングした時に、業者が採算を度外視して、協力してくれた話や、「年縞」を細かく分析して、炭素14Cで絶対年代を決めていった研究は、研究者だった私の琴線に触れるものがあり、「年縞」から正確な年代を同定していた、世界の研究者達との競争も大変興味をそそられた。
考えてみると、福井県はいわゆる「原発銀座」であり、若狭湾には多くの原発が設置され、稼働中の発電所もある。「年縞」は、過去のさまざまな災害の記録も忠実に記録している。年縞を研究しているという学芸員にそのことを問うと、彼は「原発のことはあまり考えていない」との答えが返ってきた。しかし、私は研究していることと実社会とは関係がないという態度はおかしいと思う。その後、原発容認派から反対派に転向した、前の福井県知事は自民党の公認を外され、選挙に落選していたことをその後になって知った。
五湖にそれぞれの色入道雲 徹 (08/21/20)