先日、家の近くの旧坂を急いで下っている時に、コケに足を滑らせて転倒、左脚を骨折してしまった。大したことはないと思っていたが、整形外科でレントゲンを見ると、腓骨の下部が骨折しており、全治8週間と告げられた。骨折は実に50年ぶりのことであり、その頃のことがいろいろと思い出されてきた。
大学院ODの時に、学友たちと御岳山にスキーに行き、最後の直滑降で新雪に突っ込んで今回と同じ左の腓骨を骨折した。「けが人を下すためにリフトを停止します」と放送され、私は一人で下った。上ってくるすべての人たちと眼が合い、とても恥ずかしかったことを覚えている。その夜は何とか我慢をしたが、朝起きても一向に痛みは引かないので、村の診療所で見てもらった。レントゲンを見たら、立派な骨折であり、すぐに手術を薦められたがとにかく実家に帰った。
何とか名古屋に帰り、とりあえずY外科に入院した。ここで初めて、外科というのは主に胃腸関連の病気を扱う科であり、「整形外科」とは別であることを知った。整形外科医はN病院からの応援医師で、勤務後の木曜日の夜に週1回だけやってくるのだ。「昨日来ました。今度来るのは約1週後です」と言われた。鎮痛剤と湿布だけで約1週間を過ごした。やっと診察を受け、すぐに手術となり、終わったのは午後10時過ぎであった。夜の手術というのは恐怖であった。
入院したが、ほとんど毎日ベッドに寝ているだけの毎日だった。病院のベッドで某国立大学教養部の助手選考が不採用であることを知らされた。退院後、自宅でリハビリ中に、「東大安田講堂事件」や「連合赤軍事件」があった。時代は確実に動いているのだと感じたが、松葉杖で何もできない自分が情けなかった。
50年ぶりの骨折で、レントゲン診断法と松葉杖の材質とは進化していることは分かった。しかし、手術の有無に関わらず、自力で骨が癒合することを待つだけである。治療法には進歩はみられず、その後のリハビリもかなり苦痛であろう。iPS細胞でノーベル賞をとられた山中伸弥先生は整形外科医であったという。整形外科の領域にもiPS細胞を活用した画期的な治療法が生まれないものだろうかと切に思う次第である。
松葉杖にすがる黙祷敗戦忌 徹 (09/04/20)